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高知地方裁判所 昭和36年(ワ)414号 判決

原告・参加被告 国

代理人 川上磨姫 西岡清文 安藤文雄 関安喜良 ほか五名

参加原告 渡辺豊

被告(亡蔭山猛訴訟承継人) 蔭山富貴 ほか五名

右被告六名引受参加人 坪内秀行

被告・参加被告(脱退) 永野末盛

右被告・参加被告(脱退)及び参加原告引受参加人 伊東国雄

主文

一  高知県長岡郡大豊町立川上名所在の仁尾ヶ内山山林のうち、別紙(一)ないし(三)表示の(イ)の部分(測点1ないし15、15と128、128ないし180、180と1を結ぶ線によつて囲まれた部分)六・七五五二ヘクタール及び同(一)ないし(三)表示の(ロ)の部分(測点1ないし83、83と356、356ないし378、378と1を結ぶ線によつて囲まれた部分)三四・六八〇一ヘクタールが原告(参加被告)の所有であることを確認する。

二  参加原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告(参加被告)と被告ら及び引受参加人らとの間に生じた分は被告ら及び引受参加人らの負担とし、参加原告の参加によつて生じた分は参加原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(参加被告、以下、単に「原告」という)

1  本訴請求の趣旨

(一) 主文第一項と同旨

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

2  参加原告の請求の趣旨に対する答弁

(一) 主文第二項と同旨

(二) 参加費用は参加原告の負担とする。

二  被告ら及び引受参加人ら

本訴請求の趣旨に対する答弁

(一)  本案前の答弁

(1) 原告の訴えを却下する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  本案の答弁

(1) 原告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

三  引受参加人伊藤國雄

参加原告の請求の趣旨に対する答弁

参加原告の参加申出を却下する。

四  参加原告

参加請求の趣旨

1  主文第一項掲記の(イ)及び(ロ)の部分(以下「本件係争地」という)につき参加原告が共有持分権を有することを確認する。

2  参加費用は原告及び被告(参加被告)の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求について)

一  請求原因

1 本件係争地は、かつて土佐藩の藩有林に属していたが、明治二年六月一七日太政官沙汰に基づく同藩の版籍奉還により原告がその所有権を取得した。

2 仮に本件係争地が民有林に属していたとしても、高知大林区署は、明治三三年三月二日本件係争地を含む仁尾ヶ内山山林につき国有林の境界査定処分を行ない、本件係争地が国有林内に存在することとなつたが、同査定処分は当時の法令からして行政処分としての性質を有するものであるところ、これに対し何らの異議申立や訴願がなかつたので、原告は同査定処分により本件係争地の所有権を取得した。

3 しかるに、脱退前の元被告(参加被告)永野末盛(以下「元被告永野」という)及び死亡前の被告蔭山猛(以下「亡猛」という)は、同人らがそれぞれ七〇四分の三二の共有持分権を有していた。

長岡郡大豊村立川上名字ニヲガウチヤマ一六九三番

山林 四反七畝一五歩

同所一六九四番イ

山林 四町歩

同所一六九四番ロ

山林 一六町七反八畝二二歩

同所一六九五番イ

山林 一町五反歩

同所一六九五番ロ

山林 三町五反二五歩

同所一六九八番

山林 一町三反八歩

同所一六九九番

山林 三町三反二畝一五歩

同所一七〇〇番

山林 五町六反九畝一三歩

の各土地(以下(一六九三番ほか七筆の土地」という)が本件係争地に該当すると主張して本件係争地に該当すると主張して本件係争地が原告の所有に属することを争つている。

4 元被告永野は、本訴係属中の昭和三七年七月一〇日一六九三番ほか七筆の土地に対する同人の有する特分中七〇四分の二〇を参加原告渡部豊に譲渡し、その後昭和四一年一一月二二日その余の持分七〇四分の一二を引受参加人伊藤國雄に譲渡した。そして右渡部は、同月二五日同人の有する右持分全部を右伊藤に譲渡した。

一方、亡猛は、一六九三番ほか七筆の土地に対する同人の有する持分全部を訴外都築孝雄に譲渡し、その後訴外大前兵治を経て昭和四二年九月六日引受参加人坪内秀行がこれを取得した。

そこで、原告の申立により、昭和四五年九月一八日元被告永野及び参加原告のため右伊藤に、亡猛のため右坪内に対し、それぞれ本件訴訟の引受を命ずる決定がなされ、元被告永野は昭和五六年五月二一日の本件第一回口頭弁論期日において原告の承諾を得て本件訴訟より脱退した。

また、亡猛は、昭和五六年六月一二日死亡し、被告蔭山富貴は妻として、同蔭山勢子及び同清水孝子は子として、同田中靖子、同田中博子及び同田中清彦は亡猛の子の亡田中禎子の代襲相続人としてそれぞれ亡猛の地位を承継した。

5 よつて、原告は、被告ら及び引受参加人ら(以下、被告ら及び引受参加人らを「被告ら」と総称する)に対し、本件係争地が原告の所有に属することの確認を求める。

二  本案前の主張

1 本件訴えは、本件係争地の範囲につき所在地番・反別の記載がなく、従つて訴訟の目的物の範囲の特定がなされていないから、却下されるべきである。

2 本件訴えは、仮にこれが認容されると被告らが共有持分権を有する一六九三番ほか七筆の土地につき旧土地台帳付属地図や登記の抹消・更正をしなければならななくなるが、これは不可能であるから却下されるべきである。

3 本件訴えは、一六九三番ほか七筆の共有持分権者全員を相手方とすべき必要的共同訴訟であるのに、一部の共有者である被告らのみを相手方としているから不適法なものとして却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1 請求原因1は否認する。高知地方法務局豊永出張所備付の旧土地台帳付属地図によれば、本件係争地は一六九三番ほか七筆の土地に属するものというべきである。

2 請求原因2は争う。本件係争地について境界査定処分はなされておらず、仮にこれがなされたとしても同査定処分は行政処分に当らない。

3 請求原因3は認める。

(参加原告の請求について)

一  請求原因

1 元被告永野は、一六九三番ほか七筆の土地につき七〇四分の三二の共有持分権を有していたところ、参加原告は昭和三七年七月一〇日そのうち七〇四分の二〇を譲受けた。

2 本件係争地は、右一六九三番ほか七筆の土地に属するから、参加原告は本件係争地について共有持分権を有する。

3 しかるに、原告及び元被告永野は本件係争地につき参加原告が共有分権を有することを争つていた。

4 よつて、参加原告は、原告及び元被告永野の引受参加人伊藤國雄に対し、本件係争地について参加原告が共有持分権を有することの確認を求める。

二  引受参加人伊藤國雄の本案前の主張

参加原告が元被告永野から一六九三番ほか七筆の土地に対して同人の有する共有持分権中七〇四分の二〇を譲受けた目的は、参加原告において右永野に代わつて本件訴訟を担当するためであるから、右契約は公序良俗に反する無効のものというべく、その参加申出(参加原告の訴え、以下同じ)は却下されるべきである。

三  請求原因に対する原告の認否

1 請求原因1は認める。

2 請求原因2は否認する。本件係争地は、前記原告の請求原因1及び2記載のとおり原告の所有に属する。

3 請求原因3は認める。

第三証拠 <略>

理由

一  まず、原告の請求に対する被告らの本案前の主張について判断する。

1  被告らは、本件訴えは、本件係争地の範囲について所在地番・反別の記載がなく、従つて訴訟の目的物の範囲の特定がなされていないから却下されるべきであると主張するが、別紙(一)(二)の各図面及び同(三)の実測数値表によれば、本件係争地の所在位置とこれを囲む各測点の正確な位置が把握できるからその範囲の特定に欠けるところはないというべきである。

よつて被告らの右主張は採用できない。

2  被告らは、本件訴えは、仮にこれが認容されると、被告らが共有持分権を有する一六九三番ほか七筆の土地について旧土地台帳付属地図や登記の抹消・更正をしなければならなくなるが、これは不可能であるから本件訴えは却下されるべきであると主張するが、本訴請求が認容されたからといつて直ちに右地図や登記の抹消・更生が必要となるものではないから、右主張は前提を欠きその余の点について判断をするまでもなく失当であり、採用できない。

3  被告らは、本件訴えは、一六九三番ほか七筆の土地の共有持分権者全員を相手方としなければならない必要的共同訴訟であるのに一部の共有持分権者である被告らのみを相手方としているから却下されるべきであると主張するが、原告の被告らに対する訴えはそれぞれ別個のものであり、いわゆる必要的共同訴訟に当らないと解すべきであるから、右主張は採用できない。

二  次に、参加原告の参加申出に対する引受参加人伊藤國雄の本案前の主張について判断する。

引受参加人伊藤は、参加原告は、元被告永野に代わつて本件訴訟を担当する目的で同人の有する一六九三番ほか七筆の土地についての共有持分権を譲受けたものであるから右契約は公序良俗に反し無効であり、その参加申出は却下されるべきであると主張するが、本件全証拠によつても、参加原告が右の目的をもつて元被告永野の有する共有持分権を譲受けたことを認めるに足りないから、右主張は採用できない。

三  原告の請求原因3は当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨と記録によれば、同請求原因4の事実が認められる。次に、参加原告の請求原因1、3はいずれも参加原告と原告との間に争いがない。

四  そこで、本件係争地について、原告、被告ら及び参加原告のいずれが所有権(持分権)を有するかについて判断する。

1  <証拠略>を総合すると以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  高知県長岡郡大豊町立川上名所在の仁尾ヶ内山国有林は、かつて土佐藩の藩有林であつたが、明治二年六月一七日の太政官沙汰に基づく同藩の版籍奉還により原告がその所有権を取得した。

原告は、その後、明治九年頃右国有林について、いわゆる官民有区別処分を行ない、高知大林区署が二等一級官林としてこれを管理していた。

(二)  高知大林区署は、明治二五年一一月一日隣接民有林との境界を明らかにするため地元民立会のもとに仁尾ヶ内山国有林境界の仮査定を行なつた。ところが、その後字ニヲガウチヤマの隣接地である字カゲムネの立木所有権について紛争を生じ、それが端緒となつて明治二五年に確定された官林仁尾ヶ内山の内部に脱落地が存在することが発見された。

その結果、高知大林区署は、明治二九年六月四日までに仁尾ヶ内山国有林の境界全域の踏査を完了し、これに隣接する民有林との境界を明らかにした。右踏査にあたつては、隣接地主総代の訴外永野友太郎らの立会のもとに、境界各点に測点表示をする方法によつて実施され、右永野は明治三三年三月二日完成した「城ノ尾山外一〇筒山官林境界図」(<証拠略>)及び「同境界簿」(<証拠略>)に署名押印をし、もつて境界査定処分(以下「本件境界査定処分」という)を終了したが、同処分によつて、本件係争地は仁尾ヶ内山国有林内に存在するものと確定された。

そして、その後右査定処分に対して何ら異議申立や訴願等はなされなかつた。

2  そこで、本件境界査定処分の性質についてみるに、同処分は、勅令である大小林区署官制及びこれに基づく大小林区署の訓令である官林踏査内規にその根拠を有し、その目的は単に隣接する官民有林の境界を調査確定するにとどまらず、その境界によつて区分される官有林の区域を決定することにあるから、行政処分の性質を有し、これが権限ある官庁の裁決又は判決により取消されることなくして確定するときは、仮に官有林に編入された区域内に民有林が存在していたとしてももはやその所有権の帰属を争い得ない結果となり、その限りにおいて民有林の所有権は消滅するに至るものというべきである。

そうすると、本件係争地は原告の所有に属することが明らかである。従つて、これと相容れない参加原告の請求は理由がない。

五  以上によれば、原告の被告らのに対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、参加原告の原告及び引受参加人伊藤國雄に対する各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一 増山宏 吉田肇)

別紙 (一)ないし(三) <略>

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